前回から引き続き『発達障害』のうち、「注意欠陥多動性障害(ADHD)」と「アスペルガー障害(AS)」の方たちが「抑うつ状態」「うつ病」以外に、どのような病気になって心療内科を訪れることが多いかということを中心にお話したいと思います。
まずはADHDの方たちですが、家族や学校の先生、友達からも理解されずに成長していく中で、周りに対する怒りが強くなっていくタイプの方たちがいます。突拍子もない行動をしますが、行動力があると思われることも多いので、倫理的に少し道をはずれた人たちからは一目置かれたりします。人は誰でもそうですが、自分に関心を持ってもらえたり、誉めてもらえたらうれしいですよね。特にこれまで「お前はダメだ」と言われ続けていたADHDの人たちが「ようやく仲間ができた」「やっと理解してくれる人が現れた」と思っても仕方のないことだと思います。こうして彼らはあまり深く考えずに非行の道に入っていってしまうことがあります。 その際、最初に不登校という形で行動化されることが多いように思います。ですが、自宅にいることは少なく、街中をぶらぶらするようになり、警察や学校の先生に補導される場合が出てきます。保護者は学校に行っていると思っていても、実は行っていなかったり、運良く(運悪くかもしれませんが)校内に仲間がいる場合には、授業に出ずにいることもあるでしょう。元々きちんと授業を受けていないため、知的に遅れはなくても、学習能力にはばらつきが出る障害でもあります。上記のような行動が過剰になれば、ますます授業にはついていけなくなるでしょう。 このような段階であれば、心療内科または児童精神科を受診することが多く、基本的には不登校を改善する方向での取り組みが行われることになります。また、虐待を受けていたケースの場合には、虐待による心の傷のケアも行われます。しかし、街中をぶらつき、繰り返し他人から金品を脅して取ったり、暴力を振るうようになってしまった場合には、それらの行動の頻度や悪質さなどから「反社会性人格障害」と診断され、青年期以降、精神科での治療が必要と判断されることもあるのです。未成年の場合には触法(刑罰法令に触れる行為をしたが,刑事責任年齢に達しないため責任を問われない行為)、虞(ぐ)犯(保護者の正当な監督に服しない性癖,不良交際など,それ自体としては犯罪ではないが,犯罪を犯すおそれがあると認められる行状)により、児童相談所にも報告されます。ADHDの青少年でなくてもこういった問題を起こすため、報道されることは少ないのですが、補導されたり、報告されたりした中の何割かはADHDであると思われます。 さて、ASの方はどうでしょうか?彼らは概して人との接触を好まないため、ADHDの人たちのように自分から法に触れるようなことはしないのですが(不良グループから万引きを強要されたり、彼らから金品を取られたりすることはあります)、やはり不登校になりやすいです。『友だちとうまく遊べない』、『コミュニケーションが適切に取れない』、『先生から強い叱責を受ける』、できることとできないことの差が大きいためからかわれるなどの行為から『いじめ』に発展するなどが、不登校の要因となることが多いようです。その結果、最初に身体症状を訴えることが多いのが特徴です。乳幼児期には自家中毒や発熱、入園・入学後は頭痛や下痢、嘔吐などを繰り返します。こういった目に見える症状を伴って心療内科を受診するケースも多いのです。もちろん、大人になってもこの傾向は続きます。ちょっとしたストレスにさらされただけでも、頭では大したことではないと思おうとしても、身体はそう考えることを拒否するため、上記のような症状が現れるのです。 この他には性同一性障害や摂食障害、強迫性障害、境界性人格障害、対人恐怖や広場恐怖を伴うパニック障害、統合失調症などに発展するケースなどもあります。前回も含め、これまで説明した障害や状態はそれぞれ単独で受診に値する疾患です。しかし、これらの症状の背景に『発達障害』がある場合には、「二次障害」と考える必要があるのです。どうしても表面に現れている症状に注意が向いてしまいますが、彼らが元々持っている特徴を理解しなくては治療の効果がないことも考えられるからです。彼らの行動には理由があります。特性のため、理由があったとしてもうまく説明できないこともあります。ですから、それをうまく聞き出し、問題点を一緒に考え、それを取り除くにはどうしたらいいのか、取り除くことができないのであればどう対応するのかといったことを見通しを立てて考えていくことで、彼らの悩みや問題を軽減でき、一貫した治療効果に結びつけることが可能になると思います。 そのために有効と考えられるのが「社会スキル訓練(ソーシャルスキルトレーニング、通称SST)」です。自分が困った時や、ストレスフルな状況に置かれた時にどのように対応したらいいか、相手の立場も踏まえて考えていく方法です。自分の気持ちを適切な形で表現する方法も学びます。元々は精神疾患から退職を余儀なくされた患者のために、社会復帰する際の手助けになるよう検討されてきた方法ですが、発達障害を持った方たちにも非常に有効です。もちろん、彼らには社会復帰の前に、世の中の人々がどのような考えを持って行動しているのか、自分の周りの人とどのように接していけばより暮らしていきやすいか、そのためには自分のできることとできないことを把握し、できないことがある場合にはどうやって助けを求めるのかなどを知ることも大切です。本来ならば家庭生活や学校生活の中で学んでいくことですが、彼らは1つ1つ説明されないと必要ないと考えてしまうことも多く、学べる場にいても学んでいないことが多いのです。 こういったサポートを受けられなかった人の中には、自分自身や自分の世界を守るために世間をあっと驚かせるような犯罪を起こした人もいたのではないでしょうか。3回で終わる予定でしたが、次回はそのことと、診断は受けてなくても『発達障害』の傾向が見られる、社会で活躍している人たちについて触れたいと思います。 (S.K)
by meiwahospital
| 2008-08-01 09:05
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